続々登場web会議
社員は社員で、「一介の従業員」という目線で仕事を見ている。
だから従業員の仕事ぶりは、社長から見れば「限りなく遅いスピードで、しかも質も低い」と見えてしまうことが多い。
そうなると社長はイライラして社員を怒鳴りつけてしまい、結果として生産性がさらに落ちてしまうという結果になりやすい。
だが社長と社員では、そもそも世界観が異なっている。
もし社長が現場に下りていこうと思うのであれば、社員の目線にまでいったん自分の目線を下ろし、その世界の中で社員につきあって戯れてみるぐらいの度量がなければならないと思う。
そうした度量が持てないのであれば、現場に口をはさむべきではない。
たとえば、飲食店ビジネスを例に取ってみよう。
レストランや居酒屋で、次にどのような新料理を提供するのかという商品開発はきわめて重要である。
だから飲食店業界では、どの会社でもスタッフたちが日夜、必死になって新メニューの開発に取り組んでいる。
この新メニュー開発に対して、社長はどう対応すればいいのだろう。
レストランや居酒屋、フアストフ−ドの新メニューというのは、外食企業のコアコンピタンスでもある。
会社が全力を挙げて取り組む部門で、だから経営者自身が情熱を傾けて新メニュー開発に力を注ぐというのは当然のことだ。
とくに会社の創業時には、経営者が作り上げた素晴らしいメニューが消費者に圧倒的な人気を呼び、会社を急成長させるというケースが多い。
その典型は、Mだろう。
ハンバーガーチェーン大手のMを運営しているモスフ−ドサービスの故S会長は、起業前は証券マンだった。
Mが一九七一年に初めてハンバーガーショップを開店した後、七二年に会社を設立している。
そしてMが若者たちの聞に大流行するきっかけになったのが、新メニューのテリヤキパ−ガーだった。
もともとアメリカ生まれのハンバーガーは、当初は調理方法も風味もほとんどアメリカの味そのままで日本に導入されたのである。
これに対してS会長は、「とにかく日本人が食べて、これは絶対にうまいHと言ってくれるものを作りたかった。
日本人の繊細な舌に合うハンバーガーを考えた結果、みそとしょうゆをベ−スにしたハンバーガー作りに挑戦したのです」と語るように、ハンバーガーを日本風にアレンジしたテリヤキパ−ガ−を作り出したのである。
創業時、Mは資本金の八O%を商品開発に投入していたというから驚かされる。
そしてテリヤキバ−ガ−は大ヒットし、マクドナルドに匹敵するハンバーガーチェーンへと成長したのである。
モスフ−ドはライスパ−ガーなど斬新なハンバーガー類を次々と発売した。
そしてこうした新メニューはS会長の舌から誕生し、「MのすべてのメニューはS家のキッチンから生まれる」という神話にまでなった。
これは素晴らしい起業のケ−スといえる。
会社の創業者が圧倒的なパワ−で素晴らしい製品を開発し、それをガンガン売ることによって最初の離陸を成し遂げた典型的なケ−スである。
だがここで気をつけなければならないのは、もしS会長が年月を経ても延々と新メニューに口を出し続けていたら、その後の成功は約束されていなかったということだ。
創業者としては自社のメニューに最大限の神経を使いたいというのはわかるが、いつまでも口を出し続けるべきではない。
だってそうではないか。
創業者は、当然のようにどんどん年を取っていく。
年齢が上がって五十歳代、六十歳代ともなれば、脂っこいものを食べなくなる人も多いだろう。
そうやって料理の好みが変わっていけば、若いころに好きだったハンバーガーの味も、くどく感じるようになる。
製品の味はまったく変わっていないのに、「なんかこのハンバーガーは前より味が濃くなったんじゃないか?」と感じるようになってしまうのである。
そんな風になってしまった経営者が新メニュー開発を取り仕切っていたら、どうなるだろう。
ハンバーガーの新製品は白身魚などのきっぱり系にどんどん移行していってしまい、脂っこいものが好きな若者からはそっぽを向かれてしまうことになる。
ところが、オーナー経営者というのはたいていはワンマンな性格で、自分に絶対的な自信を持っている人が多いから、自分の舌が変わってしまったことを認めたがらない。
「オレが食べて美味しくなかったから、この料理はだめだ」「新しい業態のレストランが流行ってる?オレはそんなのは知らないぞ。
オレがまだ知らないようなものが流行るわけがない」などと言って、部下を困らせるということになるのである。
テレビのビジネスニュース番組を見ると、飲食業界の社長が自社の新メニューの味見をする、という場面がよく出てくる。
社長が首をかしげながら、「うん、これはちょっとまだダメだな」と意見したり、あるいは「これは売れそうだ」などとうなずくといったシ−ンを見たことのある人も多いだろう。
テレビ的には映像としてわかりやすいので、そうした場面をあえて取り上げたがるのかもしれない。
だがこうしたシ−ンは、企業の商品開発ということに対してあらぬ誤解を与えかねない。
コンビニや居酒屋など、若者向けのチェーン展開を行っている飲食ビジネスで、三十歳代や四十歳代の社長が味を見て若者においしく感じてもらえるかどうか、本当に判断できるのかは疑わしいではないか。
社長の仕事は、味見をしてそのメニューが美味しいかどうかを判断することではない。
商品開発ができる優秀なスタッフと、そのトップに立つことのできる優秀な経営メンバーを配置して、彼らに仕事を任せることなのである。
もちろん、前に書いたようにビジョンメイキング、長期的な方向性を作ることは経営者の役割である。
「これからは四十歳代の中年男性向けのマーケットが育ってくる可能性がある」「シニア世代向けの新メニューを作り、そうした層に訴求していこう」「これからコンビニはデリになっていくはずだから、高級食材を置く店舗開発をしている」といった戦略は、経営メンバーの事業計画をベ−スにして経営者が考える必要のあることだ。
だがその戦略に基づいて、商品開発部門がどのような商品を作り出すのかということについては、社長は現場に一任しなければならない。
そうでなければ、現場も安心して仕事ができないだろう。
もし社長が新メニューの試食をする機会があるとすれば、取るべき態度はひとつだけ。
「消費者の目線に立って意見を言う」という姿勢を打ち出すことなのである。
具体的に言えば、「個人的な感想としては、美味しいと思う」「僕が今回のメニューのターゲットにしている年齢だったとしたら、こう感じるかも知れない」といった感想を述べることは、間違いではない。
ひとりの消費者として、「おいしいと思うよ」「あんまり好きじゃないな」といった感想を言うのは、構わないだろう。
だが経営者として、「この味はダメだ」とは言うべきではない。
トップのカで生み出す価値で支える経営に、限界は早い経営者はたしかにスーパーマンだが、そのスーパーマンとしての能力は、未来永劫まで続くわけではない。
どんなに発想が豊かなアイデアマン社長でも、いつかは発想が枯渇する日がやってくる。
賞昧期限がやってきてしまうのである。
そして経営者の力量、パワーだけに頼って伸びてきた会社は、経営者に貫昧期限が来てしまった時点で成長は必す止まる。
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